27.『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 バウスシアター

IMAO2006-04-12

世界から暴力が無くなる事はない。
暴力とは必然なのか?
そしてそうした暴力の上に一部の平和が
保たれているのかもしれない・・・
そんな深読みさえしてしまいたくなる作品だった。
奇才デイビット・クローネンバーグの新作。
僕はあまりクローネンバーグに熱心なファンではないが、
これは多分彼の作品の中でも一番取っ付きやすく
判りやすい作品だと思う。
そして間違いなく彼の代表作の一本となる映画だ。


アメリカの片田舎に住む幸せな夫婦。
夫のトム・スターンは街でダイナーを経営し、妻のエディは弁護士だ。
二人は相思相愛のカップルで、息子と娘と幸せに暮らしている。
だが、ある日トムの店に銃を持った二人組が現れる。
トムは正当防衛でその二人を撃ち殺し、街では英雄扱い、
地方テレビ局もおしかける程の話題となる。
しかし、その日からトムの周りに明らかに怪しい人物が
まとわりつく様になる。カール・フォガティと名乗るその男は
トムの事を「ジョーイ」と呼び、ファガティの目はジョーイによって
傷つけられた、という。
トム自身はその事を否定するが、
フォガティは次第に家族にも近づく様になってくる・・・・
というのが物語の導入だ。


この映画の脚本はある意味セオリー通りに良く出来ている。
そういう意味では新しさはないのだが、そこはやはり奇才
クローネンバーグ。確実に彼の刻印が刻まれている。
彼は暴力が行われた時に、相手に対して(そして自分に対しても)
肉体的にそして精神的にどういう影響を与えるのかを、
冷静に(彼の表現を借りれば「医学的に」)表現する。
普通映画では正義の味方が悪役を撃つと血はあまり流さない。
だがクローネンバーグは本当に人が撃たれればそうなるだろうな、
と思わせる表現をする。
そして暴力は何も相手を肉体的に攻撃する事だけではない。
この映画で描かれるセックスも暴力性と対の関係として描かれる。
そしてそうした暴力が自らの、そして相手の精神にどういう影響
を与えてゆき、波及してゆくのかを淡々と描いてゆくのだ。
クローネンバーグは言う。
「自分の命を守るために他のものを傷つけるのは、生物ならみんな
やっている事だ。(中略)しかし、その力の結果を想像して躊躇出来る
のは人間だけだ。」


ミュンヘン』の時にも書いたのだが、
http://d.hatena.ne.jp/IMAO/20060204
良い映画には優れた食事シーンが付き物だ。
この映画にもそんなシーンがあって、
そこでちょっと泣きそうになりました。


1000円もする立派なパンフに載っている監督自身のインタビューも
面白いのだが、漫画家、新井英樹のコメント等も興味深く、映画が
気に入った人にはオススメのパンフであります。
その中でちょっとビックリしたのは、この映画がクローネンバーグの
映画の中で一番お金のかかった映画だ、という事だ。(3200万ドル)
一見そんな風には見えないのだが、ヴィゴ・モーテンセンエド・ハリス
ウィリアム・ハート等のスターのギャラだけで相当な額になる、という
事なんだろうな。