『隠された記憶』 ユーロスペース

IMAO2006-05-03



リアルで恐ろしい映画。
この恐怖は良くあるホラー映画の
ビックリドッキリの怖さではなく、
静かにジワジワと忍び寄ってくる怖さなのだ。
そしてその恐怖は観終わった後に更に強固なモノになる。


テレビで書評の番組を持っている主人公の男。
彼は出版社に勤める妻と、まだ小学生の息子との三人暮らしだ。
彼等は世間的に見ればアッパーサイドな生活を送っている。
パリに割と大きな一軒家を持ち、車はBMW、そんな生活だ。
だが、彼等の所にある日からビデオテープが送られてくる。
それは彼等の家の外から撮られたモノで、夫婦と息子が家から外出する
様子が撮られている。ただ、それだけのテープだが、
その包装には人が血を流している様子が描かれている。
テープは定期的に送られてくる様になってきて、その内に男の実家の
前まで行った事を示すテープが送られてくる。
主人公の男は犯人らしき男に心当たりがあり、
その消息を求めて行動に出るが・・・・


非常にストイックな画作りと演出が見事。
覚えている限りでは音楽は1曲も使われていないし、
派手な効果音などもちろん使用されない。
ミヒャエル・ハネケは「観ること」「観られる事」という非常に映画的な
テーマと「人間の行動」という非常に純粋なマテリアルで映画を
構築してゆく。
「構築」と書いたが、この映画の構図といい、シナリオといい
相当に知的な仕掛けを感じる。だが、ラストの付け方はかなり
確信犯的で、納得しない人も多いだろう。
実際観終わった後「???」という感じだった人も多かった。
僕もしばらく狐につままれた様な感じだったが、その疑問符が
段々と恐怖に変わってゆく・・・その巧みさに感心した。
多分誰もが感じる所かもしれないが、日本の監督の黒沢清
映画に似ている所がある。ただ、役者の芝居の付け方等は
こちらの方が遥かにリアルな感じがする。黒沢清の映画って
面白いのもあるのだが、どうしてもその人達が「生きている」
っていう感じがしないのが僕はダメなのだ。
だが、この映画の主人公達は本当にそこいらにいそうな
リアルさを持っていて、そのリアルさがこの映画の恐怖を支えている。
そういう部分が好みだったりもする。


余談がだ、エリック・ロメールの会社(レ・フィルム・デュ・ローザンヌ
がこの映画に一部出資している様だ。ロメールさん、さすがに最近新作を
観ていないですが、前作とかも面白かったので新作観たいです。