9.『A』 DVD

IMAO2007-01-15

森達也の本は数冊読んでいますが、彼の本職(?)の映像作品を観るのはコレが初めて。と、いうのも近くのレンタル屋には置いてなくて、仕事で行ったついでにわざわざ恵比寿TSUTAYAで借りました。
面白いです。良く出来ている。これは一言で言うと世の中の多面性についての映画だ。如何にその視点によって物事の見え方が変わってくるか?人の目線というのは如何に固定観念に捕われているか?そしてその事が多くの軋轢や争いの元になっているのか?という事についての映画なのだと思う。この事は今正にイーストウッド硫黄島二部作でやっている事だが、この『A』はドキュメンタリーという枠でやった事に意味があるのだろう。
オウム真理教の広報になった荒木浩を追ったドキュメンタリーだが、人間観察としてのポイントが肝だ。荒木に寄り添い、ある時は友達の様に、そしてまたある時はカメラそのモノとして撮影してゆく森達夫の行動が、この映画の主張と重なっている。警察による「公務執行妨害」という名の横暴とも言える捜査、マスコミのハイエナの様な対応。そういう風にオウムの外の人間が「横暴」で「ハイエナの様」に見えるのも、正に立場が変わったからこそ見える視座なのだし、物事の真相はそんなに簡単ではない、という主張なのだろう。
一番感じたのはやはり「組織」というモノへの不信感だ。これは僕の個人的な思いだが、あまり大きな組織というモノがどうしても好きになれない。昔から学校が嫌いだったし、会社の名前だけで生活している様な人も好きになれない。それはある意味「組織」というモノが個人を見え難くしてしまうからだ。同じ組織の中の人でも付き合いやすい人もいれば、付き合い難い人もいる。面白い人もいれば詰らない人もいる。森達也はそうした「オウム」という「組織」で語られていたモノに対して荒木浩森達也という「個人」という立場で物事を捉えようとする。それは彼がTVのディレクターとしてフリーランスでやってきた正に「個人」だったからこそ得られた視線なのだろうし、僕も同じフリーランスの人間として共感してしまう部分も多い。その事は特に書籍版の方に詳しく述べられているが。
それにしてももう10年も昔の話なんですね。僕はちょうどこの頃から映像業界に入った人間なので、色々と懐かしい様な、複雑な思いです。一体この10年間何やってきたんでしょうね^^