49.『8月の終わり、9月の初め』 日仏学院

IMAO2010-07-03

ジャンヌ・バリバール特集の中の一本。1998年度の作品だから、もう12年程前のオリヴィエ・アセイヤスの映画だが、フランス映画的というかフランス映画でしかあり得ないアプローチは今もって新鮮・・ちなみに日本語のタイトルの『〜初め』は日仏学院のページの表記のまま。
マチュー・アマルリック演ずる主人公は編集の仕事に関わっている。その元恋人のジャンヌ・バリバール。新しい恋人のヴィルジニー・ルドワイヤン、そして彼の親友で、あまり売れていない作家のフランソワ・クルーゼ等の関係が描かれる。非常に小さい宇宙での話だが、ある意味普遍性を孕んだ物語。恋愛、結婚、友人の死・・その微妙だが、確実な時の流れの中で彼等は変化してゆく。
親友が死んだ後の時間の経過、そしてその描写が興味深い。親友は生きている間は小説が売れず、悩んでいたが、死んだ後に編集者によって再編成された遺作が売れ始める。そしてラスト、主人公の男は打ち合わせでカフェにいる。その向こうに死んだ親友の元恋人が、新しい彼氏と並んで歩いている姿を発見する。その姿を見て、主人公の男はなぜか嬉しくなる。その娘に話しかける訳でもないが、彼はなぜかそこに希望を発見するのだ。彼は今まで話していた打ち合わせの相手に「これから何をするの?」と聞かれて「よくわからないけど、もっと個人的な事を・・小説とか書こうかと思う」という所で映画は終る。
アメリカ映画ではありえない微妙な味わい。でも確実なストーリーラインがそこにある。恋愛事情も会話も、仕草の表現もまったく日本映画でもアメリカ映画でもありえないほど微妙でささやかだが、それだけにリアル。そしてこんなに微妙なニュアンスの物語なのに退屈しない。そんな部分がやっぱり好きだ。
余談だが主演のマチュー・アマルリックは、この前のカンヌ映画祭で監督賞も採ったマルチな才能の持ち主。この頃は『そして僕は恋をする』でしか知らなかったが今やアメリカ映画とかの脇役でも度々お目にかかれる程の売れっ子だ。つくづく時の流れは早い・・

※追記:この映画の中で主人公の親友の若い恋人役のミア・ハンセン・ラヴは今29才で映画監督になっている。ちょうど今『あの夏の子供たち』という彼女の監督二作目をやっているので、機会あれば観てみたい。