50.『めし』(再) NHK-BS2

今日から始まったNHKの成瀬特集。
正直『乙女ごころ三人姉妹』は寝てしまっていたが、
何年かぶりに観る『めし』には感動した。
成瀬の映画は単に技術論では語る事の出来ない何かに満ちている。
単に技術的な視点からこの映画を観れば、
こんなに詰らなく見える作品もない。
極々「普通に」見えるカット割り。
そのあまりにも「普通さ」に呆れる事さえある。
そのカットを繋ぐのは登場人物たちの目線の配置、
という非常に基本的なモンタージュだ。
ただ、その「目線」の配置に、もの凄く気を使って
いるのは判る。

(多分この人はある時点から映画の技術的な問題に
ほとんど気を使わなくなったのだろう。
そういう意味では小津の方が頑な感じがする。
その一つの証拠に小津は生涯スタンダードの映画しか
撮らなかったのに対して成瀬は柔軟にシネスコの作品も
多く作っている。要するに彼にとって器は何でも良いのだ。)

だが、その中に生きている人物達(特に女優達)
の「表情」には何度もハッとさせられた。
もちろん原節子杉村春子が一級の女優であるからこそ
出来る技なのだろうが、彼女達の表情をここまで引き出せたのは
やはり成瀬マジックがどこかに働いていた証拠でもある。
何気ない日常の中の何気ない仕草や表情、
そのあまりのリアルさに、僕は戸惑ってしまうのだ。
戸惑ってしまうと同時に、この「顔」を映画の中に定着させた
成瀬巳喜男の才能には敬意を払わざるを得ない。