70.『乱れ雲』(再) NHK-BS2

成瀬巳喜男の遺作。昭和42年作品だからもう40年近く昔の映画である。
僕はこの作品が成瀬の映画の中では1、2位を争う程好きである。
この映画も昨日の『乱れる』と同じくらい説明不可能な魅力に満ちている。
そういう事を考えれば考える程、成瀬は言葉では説明出来ない、
映画でしか表現出来なかった事を成し遂げられた
希有な監督だったのだと思う。


良く言われる事だが、彼の映画は饒舌ではない。
女優との打ち合せで、脚本の台詞を削っていった、という話は有名だ。
それは
「この台詞を言わなくても、アナタなら仕草と目線で表現出来ますね?」
という確認であり、
彼女達に対する暗黙のプレッシャーのかけ方だったのだろう。
そしてそれに応える事が出来る女優や俳優を選んだのだ。
だから彼の映画の中の「仕草」や「目線」は濃厚な味わいがあるのだ。


だが、必ずしも達者な役者ばかりがいる訳ではない。
例えば加山雄三はハッキリ言ってそんなに巧い俳優ではないが、
成瀬は若き加山雄三の「単純さ」「純朴さ」を逆手に取って
加山以外にはありえない様な役回りを与えている。
それが『乱れる』や『乱れ雲』の中で見られる
加山の余りにも直球すぎる求愛行動となって現れている。
だから加山が高峰秀子司葉子に対して「好きだ」と言う時、
僕たちはその余りの単純さに打たれ、その純真さに感動するのだ。