78.『ゆれる』 アミューズCQN

IMAO2006-07-25

西川美和の前作『蛇イチゴ』は未見だが、
この映画を観ただけで、西川が素晴らしい構成力と観察眼
の持ち主である事が判った。


オダギリジョー演じる早川猛はファッションカメラマンとして
東京でそこそこ成功している。小さいながらも事務所を構え、
人を雇い、二年程休みが取れない。そしてほどほどに
女と付き合い、生活を楽しんでいる様に見える。
(そうした猛の生活を西川は出だしの5分で判らせる。)
彼は法事で故郷に帰るが、そこには父親と共にガソリンスタンンド
を経営している兄、稔が暮らしている。そして、そのスタンドには
かつて猛と関係があった幼なじみの智恵子が働いている。
猛は軽い気持ちで智恵子を誘い、その晩関係を持つ。
彼等は翌日の休日に渓谷に遊びに行く。そこはかつて兄弟が
両親と共に良く遊びに行った場所なのだ。そこには古い吊り橋があり、
猛は智恵子と稔から逃れる様に吊り橋の向こうへと行く。
後から智恵子と稔がやって来るが、智恵子は吊り橋から落ちて死ぬ。
一見事故だったかの様に見えたが、兄、稔は警察に対して
「自分が故意に落とした」と自供する・・・・
猛は現場を目撃していたのか?稔は嘘を付いているのか?
というのが物語の導入だ。


まず脚本の構成が巧みだ。
そして、その中に描かれる人間達の一つ一つの動作、仕草・・
そういったモノがかなり計算されて描かれている脚本なのだろう。
この物語は、兄弟の話であり、贖罪の話であり、サスペンスであり、
裁判劇でもある。これだけの要素の中、主人公とその兄の気持ちが
ゆれうごいていく様を描いている。
個人的にはこのオダギリジョーの人物の描き方には好感が持てた。
彼は決して善人でもなく、かといって悪人でもない、ごく普通に美しくしさも
醜さも持った人間として描かれている。彼は自分が手に入れたモノと捨てて
きたモノ、そうした背景の中で自分を掴みきれないでいる。
そうした人間のリアルさを正面から描いた映画は実は日本ではまだ少ない。
(小説版も出ているので、機会もあれば読んでみるつもり。)
そして常に編集を意識した画作りの巧みさ。地味だが確実に映画的なモノが
西川美和には根付いている。


兄弟のオダギリジョー香川照之はアタリ役でしょう。
この二人がこの脚本に厚みを与えている。
その他脇にも気の利いた配役、というかちょっとやり過ぎかも?
と思える人達もいましたが、結構良かったです。
何しろピエール瀧が刑事で、田口トモロヲが裁判長で、
木村祐一が検察官ってどういう警察、司法じゃ?!
ちょいと余談だが、映画の中で8ミリの映写機が出て来た時点
でワクワクしてしまいました^^
富士フィルムが作っている「シングル8」はもう生産も現像も
ここ数年で終了する事が決定している。それが嫌みにならない
程度に出てきたのは元自主映画作家としてはかなり心がくすぐられました。


それにしても女性監督が元気ですね。
この西川美和にしろ、荻上直子井口奈己安里麻里
ちょっと思い出しただけでも女性監督ばかりである。
やっと正常な世の中になったのかもしれないが・・・