(再)『やさしくキスをして』 WOWOW録画

IMAO2008-04-26

最近新作を観ても気がめいる事が多いが、こういう映画を観直すと本当に救われる。
出だし5分、主人公の妹が学校でイギリス育ちのパキスタン人である事を誇らし気に語るシーン。そこからして、もうケン・ローチのリズムだ。妹を迎えにきた主人公の兄が、喧嘩をしている妹を止めに校内に入る。妹は音楽室に走り込み、そこで主人公と女教師は出会う。もうここで全ての要素が揃ってしまう。この映画はある男と女のラブ・ストーリーだが、人種と偏見の話でもある。そういう事が本当に自然に、それでいてちゃんと映画として成立する流れとして描かれる。もう見事としか言い様がない。
登場人物達は皆完璧ではない。彼等は皆でこぼこな矛盾に満ちた人々だ。主人公のパキスタン人の青年は戒律を重んじるイスラム教徒だが、クラブでDJをやっている。自分はそういう場所で働いているのに、自分の妹がそこで遊ぶのは許さない。彼は文化的にも混血児であり、自分の家族と伝統を大切に思うと同時にそこから逃れたいとも思っている。女はカソリック系の高校教師だが、離婚歴があり別に宗教を重んじているわけではない。彼女は自分の生きたい様に生きているだけだが、周りの状況がそれを許さない。この2人の付き合いは、彼等のそうした文化的軋轢の中で進行してゆく。
こう書くとなんだか重苦しい話の様だし、実際重いテーマでもあるのだが、そこはケン・ローチ、まるでサッカー選手の様なフットワークで全てのエピソードをこなしてゆきます。それでいて、この映画は誰にでもありえる恋愛の話として描かれていて、ケン・ローチの懐の広さを感じます。