35.『空気人形』 バルト9

IMAO2009-10-08

この作品が完璧な作品だとは思わない。いらないエピソードもある様な気もするし、それは多分そこが巧く映画に馴染んでいないからかもしれない。でも、ペ・ドゥナという女優を観ていると、それだけで「事故」なのだ、という気がしてくる。この女優が演じるダッチワイフは正に彼女に息を吹き込まれたからこそ、キャラクターとして生きてくるのであって、他に誰がこの役を出来ると言うのか?
「疑似と倒錯」「空虚と欠如」がこの映画の男女を表すキーワードだ、という是枝は、病的な現代の男女の在り方を責めるでもなく、かといって許すでもなく静かに提示してゆく。そのメタファーとしての心を持ったダッチワイフは当然の様に最後には死んでゆく運命なのだが、この映画を観ている我々はまだ生き続けなくてはならない。その事が一番悲しく辛い現実なのだけれども、その事を気付かせてくれるだけでも、この映画は憎めない。逆にそこが嫌いだ、という人ももちろんいるだろうが・・