(再)『わが谷は緑なりき』 シネマヴェーラ

IMAO2007-04-20

DVDも持っているけれど、やはり礼儀として一度はスクリーンで、と思って最終日に駆けつける。
「最近のことは忘れてしまうのに、遠い過去の人々の記憶はなぜか消えない」そう語る主人公のモノローグから始まるこの映画は、記憶の物語でもある。そういう意味でも20世紀を代表するマスターピースに相応しい映画。
好きなシーンがたくさんある。炭坑夫の父親や兄達との食事シーン。兄の結婚パーティー。集会で怒鳴りながらスピーチをする母親。歩けなくなった主人公を山の上まで連れてゆく牧師。初めての学校で友達と喧嘩になる息子。炭坑で事故現場に取り残された父親を探しに行く男達。その中で真っ先に「俺も行こう」と言うパンチドランカーの元ボクサー。炭坑内で下敷きになっている父親を見つけ、「お前は男になった」と言われる息子。その夫を待つ妻が「今あの人の言葉が聞こえた」と言う顔・・・・そのどれもが美しい。と、いうより映画全体が神々しく輝いている!
この映画の美しさをどう言葉にすれば良いのか判らないが、一つ確かな事は、もうこんな映画が撮られる事はない、という事だ。ストーリー、撮影、演技、美術、そのどれもが完璧なのだ。こんな完璧さを見せつけられた後に一体何を言えば良いのか?全ては映画が語っている。主人公は自分の父親を評してこう語る。「父の様な男に『死』という言葉はない。今も記憶に生き続け、愛を教えてくれる」この言葉の「父の様な男」という部分を「ジョン・フォードの映画」と置き換えてみれば良い。何はともあれ墓場まで持ってゆきたい映画の一本。